小説感想

ひと夏の経験値 (富士見ドラゴンブック)

ひと夏の経験値 (富士見ドラゴンブック)

◆「ひと夏の経験値」(75点)
著者(秋口ぎぐる)、イラスト(濱元隆輔

というわけで、秋口ぎぐるによるTRPGプレイヤー青春ストーリー「ひと夏の経験値」・・ある夏、テーブルトークRPGを遊ぶ友永達也たちのサークルに、美少女・菜々子が現れるって話。
・・ぐはあ!、クリティカル・ヒットだった。
正直・・あの時代を生き、あの空気を吸い、あの世界に夢中だった自分としては悶絶ものの一冊。
これは「TRPG青春小説」という前代未聞の内容であり、もう90年代という時代性といい、大阪という地域性といい、TRPGというモチーフといい、共感せずにはいられない。
もう読んでいて、懐かしいやら痛いやら・・。
まあ基本的にはフィクションであり、ヒロインである菜々子があまりに「いい子」過ぎたり、お話的にも「いい話」過ぎたりして、「電車男」や「NHKにようこそ!」のようなファンタジーさがあったりもするわけだが、作者の体験から来たであろうあの時代の「空気感」や、TRPG周りの「臨場感」やら、登場人物たちの「心情」なんかのリアリティは白眉であり、「青春小説」としてもよくできていた。
・・サークル内でアイドル的にふるまう雪乃とか、脱TRPGしてモテ道に走るタナケンの描写とか、もうねえ・・。
しかも、結構突き刺さるようなくだりなんかもあり・・
「こんままやったら俺らの人生、ずっと1ゾロや」とかのセリフとか、「おめーらだけが青春してるんじゃねーぞ!!!」の流れとか、文化系的・・というか、「オタ的青春」の雰囲気をこれでもかと表現しており、恐ろしいぐらい「草食動物(笑)」の世界を描き切っていた。
とはいえ、基本的にはノスタルジーな感じもするわけで、あの時代やTRPGという世界を知らない人などが読んだら、どう思うかはちょっと未知数ではあるなあ。
とりあえず、まあ自分にとってはクリティカル・ヒットではあった・・色んな意味で(笑)