小説感想

大分前に読んだ小説の感想を発掘・・


◆ドラゴンズ・ウィル 全1巻5
著者(榊一郎)、イラスト(田沼雄一郎

というわけで、第9回ファンタジア長編小説大賞準入選受賞作である榊一郎の「ドラゴンズ・ウィル」
内容は、明るく元気な少女であるエチカ・ライプニッツは、聖デルフォイの森に住むと言われる、スピノザという魔竜を倒すために森へとやって来る。
ところがその邪悪な敵であるはずのスピノザは、紅茶を愛す平和主義の竜だったって話。
うむ、面白かった。
流石に榊一郎の原点的作品だけあって、「運命に抗う者達」というギミックや、ファンタジーからSFへと移行する所とか、ミリタリー感覚とかがなかなかに面白かった。
人間の価値観を固定するための、「絶対悪」としての竜の存在が物悲しくも切なくて良いんだよね。
そして、実は心に傷を持った元気少女・エチカと、心優しき変わり者の竜・スピノザの心温まる交流のあとでの、あのクライマックスの悲劇と、ラストの墓標に刻まれた「優しき英雄、ここ眠る」という言葉がもう、泣ける。
ファンタジーでSFでミリタリーな所なんか、結構「ジブリ」テイスト溢れているんで、ジブリで映画化しないかなあ・・しないか(笑)


◆機械どもの荒野(メタルダム) 全1巻3
著者(森岡浩之)、イラスト(米村孝一郎
機械どもの荒野(メタルダム) (ソノラマ文庫 (806))


というわけで、「星界の紋章」の森岡浩之による「機械どもの荒野(メタルダム)」。
荒野をさまよう機械ども狩る、狩人の青年・タケルは、ある日、しゃべる機械を捕まえる。
そして、その機械「チャル」は、タケルに驚くべき提案をするのであったって話。
まあまあ面白かった。
星界の紋章」と同じく、キャラクターの軽妙なやり取りや独特のセリフ回し、淡々とした描写で語られる展開、怠惰でけだるさに満ちた世界観などは、森岡節がきいていて、なかなか面白かった。
まあでも、やはりSF中編って感じで、星界ほどのスピード感や、キャラ、ストーリー、設定等の魅力、SFっぽさはそれほどなかったかな。
しかしテーマとしては、「機械により支配された人類の永遠の繁栄」に対する人類の反逆というのが、星界のテーマと同じというか、ある意味反対なのは面白いね。
来るべき未来の破滅よりも、今ある自由を選んだ、タケル達の選択は、愚かしくもあり、清々しくもありました。


◆真・退魔戦記「退魔官 赤神恭也」4
著者(ことだこうたろう)、イラスト(士郎正宗

というわけで、メイルトークRPG「真・退魔戦記」のノベライズである、真・退魔戦記「退魔官 赤神恭也」。
時は1999年、妖魔と魔術の存在が公的に認知された日本、そこに設置された妖魔・魔術犯罪専門の警察組織「退魔庁」の退魔官である赤神恭也は、屯田教授失踪に端を発する妖魔事件を追いかけるって話。
なかなか面白かった。
現代社会に実存する妖魔や魔術という、まあ手垢のついた設定ではあるが、それをTVやハリウッドの刑事ドラマ風に仕上げていて、「サイレントメビウス」や「GS美神」とは、「警察組織」としてのデビルハンターって感じで、また違った雰囲気があって、なかなか良かった。
作りも、「今の自分に疑問を持つ若者の自立」って感じで、ライトノベル的なテーマもあるしね。
あと何と言っても、結構ぴったりな作風である士郎正宗のイラストがいいね・・まあファンだしね(笑)
まあ、その代わりに挿絵もカラーのイラストで、普通の文庫の値段よりも、2割ほど割増だったりはするけど。
今巻は、赤神を中心とした結構地味目な話だったので、今度は他の退魔官をも活躍させた話が読んでみたい所であるな。


◆ラスト・ビジョン 全1巻3
著者(海羽超史郎)、イラスト(ヤスダスズヒト

というわけで、第7回電撃ゲーム小説大賞「選考委員奨励賞」受賞作家である海羽超史郎の「ラスト・ビジョン」。
高校3年生の初乃素直は、最後の最後の夏休みを利用して、クラスメイトの間ノ井忠、神無月さよりと共に、同じくクラスメイトの高井深奈が招待してくれた彼女の故郷である人工の離島、大企業・高井産業の研究施設へとやって来た。
なかなか深奈に会うことができない初乃たち3人は夏休みを満喫していたが、研究所内の事件に巻き込まれてしまうのであった、って話。
まあまあ面白かった。
第一印象は、「高校生たちのひと夏の冒険」みたいなイメージだったのだが、蓋を明けてみれば、「タイムリープ」(高畑京一郎)のような、「時間ものミステリー」であった。
でも正直、人や場所や時間がコロコロ変わる描写と、ちと読みづらい独特の文体のせいもあってか、ちと話がわかりにくかったな。
タイムリープ」と同じく、パズルのピースのように少しづつ真相が明かされて行くのは良いんだけども、なんか若干疾走感に欠けていた気がする。
ラストも、ちとわかりにくなかったしねえ。
青春ものの雰囲気と、ミステリータッチの手法は良かったのであるが。
やはり、「タイムリープ」の方が、一枚上手な気はしました